「八重山そば」  更新 2017.05.13

今回は青字の個所を追記しました。

 沖縄県内では単に「そば」、あるいは方言で「すば」「うちなーすば」とも呼ばれる「沖縄そば」。 現在ではその呼び名も全国的にも定着しています。一方、内地で食される一般的な蕎麦は、沖縄県内では「日本そば」「ヤマトそば」「黒いおそば」などと呼び区別されています。
  
 1972年の本土復帰以前は、沖縄県内で「そば」と言えばすなわち「沖縄そば」のことでしたので、特に意識することなく単に「そば」と呼ばれていました。 復帰後は、「日本そば」との混乱を避けるために「沖縄そば」という呼称が用いられるようになりましたが、1976年に沖縄県公正取引室が、「生めん類の表示に関する公正競争規約」の「そば」とは、「そば粉30%以上、小麦粉70%以下の割合で混合したものを主たる原料とする」という記述を根拠に、この「沖縄そば」という名称に対してもクレームをつけました。 というのも、「沖縄そば」の麺には蕎麦粉は全く入っておらず、小麦粉100%の麺だからです。

 しかし戦前より一貫して「そば」と呼ばれてきた慣習を変えることは困難であるため、沖縄生麺協同組合等の交渉により、1977年、通称としての「沖縄そば」が沖縄県内のみの使用に限り許可されました。 その後、1978年に、沖縄県内で生産され仕上げに油処理を行うことなどいくつかの条件の下に、特殊名称として「沖縄そば」が認可されました。 今日ではこの認可された日である10月17日を記念し、「
沖縄そばの日」とされています。

来夏世さん(石垣島)のそば
  
 ところで、「沖縄そば」は製法的には中華麺(ラーメンなどに使われる麵)と同一で、公正競争規約の上でも「中華めん」に分類されています。麺は「かん水」または伝統的に木灰(ガジュマルなどの亜熱帯樹木の薪を燃やして作った灰)を使った灰汁(上澄み液)を加えて打たれます。

 沖縄そばと中華麺の違いはこの製麺後の扱い方にあります。 大きな違いとしては、粉を捏ねるときに灰汁を加える事と、茹で上げた麺に綿実油等の植物油を塗って風味を付け、冷水で締めずに(水洗いせず)自然冷却するという点があげられます。 これは麺に油を吸わせることで保存性を高めることと(冷蔵庫のない時代に生まれた腐敗防止の知恵とも云われています)、麺同士のくっつきを防止することにありますが、この工程が沖縄そば独特の食感を生んでいます。


  ※ 最近では 一部には手打ち麺を茹でたてで出す店や、油処理を行わない冷凍麺
    なども流通しています。 ゆで麺との食感の違いを楽しむことができます。

知花食堂さん(石垣島)のそば
 
 ところで、「沖縄そば」と「八重山そば」とはどこが違うのか、知っていますか? また「宮古そば」と「八重山そば」とはどう違うのか知っていますか?

 沖縄県内のそばには地域の名前がついたそばが数多くあります。 勿論、地域ごとに麺やスープ、具材に特徴がありますが、一番大きな違いは「麺」にあります。
 そばを頼む地域(店にもよりますが)によって麺が違うわけで、具体的には平たい、細い、縮れなどの違いがあります。
 スープのダシは豚骨やカツオ節を用いるのが一般的です。 鶏や昆布、しいたけなどを加え、独自の味を出しているところもあります。 風味が決め手です。
 また
トッピングは地域によってあまり差はなく、ほぼ共通のものになります。
 石垣島で「八重山そば」を頼めば、細麺のそばが出てきます。 そこで「ソーキそば」を頼めば、「八重山そば」にソーキがトッピングされたものが出てきます。

赤石食堂さん(石垣島)の
野菜そば + ソーキ乗せ
 
区 分 内 容
「沖縄そば」

 沖縄本島でもその地域によって「那覇そば」、「首里そば」、「名護そば」、「やんばるそば」、「与那原そば」などの名前がついたそばがあります。
 最もポピュラーなそばで、麺は南部(那覇中心)ではややコシのある中型縮れ麺ややねじれたうどん風)、北部(名護中心)では固めの平打ち麺きしめん風が、伝統的に好まれ製造されています。
 豚三枚肉は甘く煮て細切りにして細ネギ、紅ショウガというのが「沖縄そば」の基本形です。(沖縄本島ではこの紅ショウガを添えることが多いのが特徴です。)
 汁は豚の三枚肉を茹でた汁に鰹だしを合わせたものでさっぱりとした塩味です。
 

「宮古そば」  他地域と同様に、油処理した茹で置きの麺が用いられる。麺は細く縮れのない平麺で、スープがあっさりしているのが特徴です。
 具は沖縄本島のそばと同様に、三枚肉とかまぼこが標準です。ただし、かつては具が麺の下に隠すように置かれるのが特徴でした。そのため、見かけの上では器の中に汁と麺だけ、その上に刻みネギが載っているという風になります。このようにする理由としては、具の表面が乾かないようにするためとか、「具も載せられないくらいに貧しい」という風に見せることで、近所の目や年貢の取り立てに対抗しようとした(贅沢を隠す為に具を器の底に隠した)とか言われていますが、真偽のほどは定かではありません。しかしながら、近年では他地方のそばと同様に具を麺の上に乗せるところが多くなっています。
 店によってはカレー粉
がテーブルに置かれており、好みによって振りかけて食べることができるのも「宮古そば」の特徴の一つです。
「八重山そば」  製法は一般的な沖縄そばと共通で、茹でた後に油処理を行うため、ラーメンとは明らかに異なる食感があります。製麺所は金城製麺所と荷川取食品の2社が有名で、麺が細くて丸くコシが強く、縮れがほとんどないのが特徴です。
 スープはほんのり甘みのあるのが特徴で、具は醤油で炒めた(あるいは煮染めた)豚の赤身肉とカマボコを、細切りにして載せるのが特徴です。ピパーツ(ビパーチ:ヒハツ)という島胡椒を好みで入れて食べます。また、沖縄本島では紅ショウガを添えることが多いのですが、八重山地方ではあまり用いられません。

 また、もっとも手軽な食べ方として、市販のゆで麺のビニル袋内に「サバ缶」「サンマ缶」などを絡めてもみほぐし、そのまま常温で食べる「からそば」と呼ばれる食べ方もあります。石垣島では「からそばのタレ」も商品化されています。ねぎなど手近なものと和えれば簡便な軽食や酒のつまみとしてもしばしば用いられます。
大東そば

平打ちではなく、うどんのような形の太く縮れている麺が大東そばの特徴です。
木灰汁と海水で練った麺は、コシ(弾力)が強く食べごたえがあります。
縮れた麺にあっさりとしたスープがよく絡みます。

カツオだしのスープで、具は三枚肉とカマボコ、ネギ、紅ショウガが基本です。

 
 通常「沖縄そば」には、三枚肉、かまぼこ・ねぎ・紅しょうが等が入っていますが、「沖縄そば」が出始めた頃は豚肉(赤肉)とネギだけだったそうです。今ではソーキや、軟骨、フーチバー、もずく、天ぷら、沖縄料理など、それぞれのお店によって工夫された具が用いられるようになってきました。
 以下に、その中でも代表的なトッピング素材(具材)等を紹介します。
 
トッピング素材等 内 容
三枚肉 肉の断面が皮、脂身、赤身の三層になっていることから、 「三枚肉」と呼ばれている沖縄そばのメイン具材です。 じっくりと時間をかけ、甘辛く煮込んであります。 皮付き豚のバラ肉を砂糖醤油でじっくり煮込んだ沖縄そばになくてはならない具です。
ソーキ 豚のあばら肉(スペアリブ)を三枚肉同様、甘辛く煮込んだもので、骨が簡単に取れるほど軟らかくなっています。
骨付きソーキと軟骨ソーキがあります。
豚足 豚の足を煮込んだものです。 コラーゲンを豊富に含み、沖縄では昔から健康長寿食として好まれています。
豚・中身 豚の胃や腸をざく切りにしたものです。 これらとコンニャクや椎茸を吸物にした中身汁は 古くから沖縄の郷土料理として食されています。
野菜炒め ニンジン、キャベツ、タマネギや牛肉などを炒め、 麺が見えなくなるほどたっぷりと盛り付けられます。
野菜の種類は店によって様々です。
卵焼き 細切りにして添えられてることが多く、店によっては、ゆで卵を使うところもあります。
フーチバー ニシヨモギの方言名で、カルシウムや鉄分などが豊富に含まれています。 普通はそのまま食べますが、最近では麺に練り込んだものも増えてきています。
ゆし豆腐 ゆし豆腐=おぼろ豆腐が入ったもので、あっさりしていて食べやすいそばです。
紅ショウガ 豚骨ダシのコクのあるスープを引き締めてくれます。八重山ではあまり用いられません。
.かまぼこ 沖縄のかまぼこと言えばすりつぶした魚肉を油で揚げたものです。野菜や海草などを加えた、様々な種類があります。
もずく 沖縄で最も多く養殖されている海産物は「もずく」です。勿論、天然物もたくさんあります。「もずく」は食物繊維やミネラルを多く含んだ低カロリー食品です。
.島ねぎ 薬味として欠かせない島ねぎ、太ねぎなどの場合もあります。香りを生かすために、切りたてを使う店もあります。
コーレーグースー 島とうがらしを泡盛につけ込んだものです。くれぐれも入れすぎには注意しましょう。
ピパーツ 島胡椒、ピパーチ、ヒハツとも呼ばれます。ヒハツモドキという植物の未熟のままの実を収穫し、乾燥し炒って粉にしたもので、料理の香辛料・調味料として用いられます。八重山そばに振りかけたり、若い葉を刻んでジューシー(炊き込みご飯)に混ぜたりします。
 

※参考までに

一般的な豚ベースのそばだけでなく、個性豊かなそばもあります。
 
新垣食堂さん(石垣島)の「牛そば」
自家牧場の牛を使用しています。ビーフカレーもお勧めです。
栄福食堂さん(通称「トニーそば」:石垣島)の「やぎそば」
フーチバーで臭いを消していますが、正直言って私は苦手です。

 
竹富島の「やらぼ」さんの「エビ入り野菜そば」。
実は竹富島は車エビの養殖で有名な場所でもあります。その地元の特産品である車エビを5匹載せたそばです。お店は「喜宝院・蒐集館」の西隣です。
丸八そば屋さん(石垣島)の「ソーキそば」。
惜しまれながら一時期店を閉じていた八重山そばの伝説的老舗「丸八そば屋」は、2015年夏に「石垣島料理 丸八」として生まれ変わりました。新しい店舗は、真栄里の旧石垣空港の西側です。麺は自家製生麺を使用しています。

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