八重山のサンゴ  作成 2015.03.21

1.石西礁湖

 石垣島と西表島の間の海域に広がるサンゴ礁は、石垣島の「石」と西表島の「西」をとって「石西礁湖(せきせいしょうこ)」と呼ばれ、西表石垣国立公園に含まれています。 この石西礁湖は日本で最大規模(東西約20km、南北約15km)を誇るサンゴ礁域で、各島々で多彩に発達し、その美しさと多様性では世界一と言われています。


 フィリピン東方より北上する黒潮が八重山のサンゴ礁を育んでいるわけですが、石西礁湖周辺ではグレートバリアリーフよりも多くの360種を超える造礁サンゴが分布していると言われています。

 また、多様で豊かなサンゴ礁生態系は世界的にも貴重で、沖縄本島をはじめとした海域へサンゴ幼生を供給する源の役割もはたしており、我が国のサンゴ礁を支えているとも言われています。

 この我が国最大で世界的にも貴重な石西礁湖のサンゴ礁は、今や、危機に瀕しています。 高水温による白化、オニヒトデの大量発生、赤土流出や水質汚濁などの影響によって大きく衰退しつつあります。

 石西礁湖のサンゴ礁は、私が初めて八重山を訪れた1970年代頃までは人為的な影響も少なく非常に良好に(原始・原生的な状態で)保たれていました。 しかし、1980年頃から始まったオニヒトデの大発生でサンゴが食べられ、大きく衰退しました。
  
 その後、1990年代後半には石西礁湖全体で回復に向かいましたが、1998年と2007年に大規模な白化が起こって衰退し、現在では危機的な状態にあります。 さらに、このサンゴ礁の衰退には、農業起因の赤土流出や水質汚濁の影響も重なってきています。
 個人的な感覚で言えば、サンゴは私が初めて八重山を訪れた1970年代頃と比較すると、今日では恐らくその90%以上が死滅してしまったといっても過言ではないと思っています。全体としての被害状況で、勿論場所によってはそれ以上の所もあれば、大した被害を受けていない場所もありますが・・・。
 
2.サンゴとは
 

 サンゴは腔腸動物で、分類学上は、クラゲやイソギンチャクなどと同じ動物です。 サンゴの最小の単位は大きさ5ミリ程のポリプで、このポリプがいっぱい集まってコロニーを形成し、エダサンゴやノウサンゴになります。 つまり5ミリぐらいのポリプの集合体がサンゴなのです。 ポリプの大きさは数mmから数cmで、刺胞動物門に属します。 触手の先に刺胞を持ち、敵やえさ(動物プランクトン)などを攻撃します。 口、消化管、筋肉、触手などからなるごく簡単な構造を持っています。 夜間には口の周囲にある触手で動物プランクトンを捕まえて腔腸に引き入れて食べます。

 また、サンゴはCO2(二酸化炭素)を体内に取り込みO2(酸素)を放出させます。 サンゴは光合成することで海中のCO2を吸収してO2を発生させていますが、それはサンゴと共生している褐虫藻の働きによるものなのです。 サンゴは自ら捕食する動物プランクトンだけでは栄養が不足するため、褐虫藻の光合成産物(アミノ酸など)に依存しないと生きていけないわけです。この共生のバランスによってサンゴは広く分布しています。 
 このため、なんらかの原因で褐虫藻がダメージを受けたり十分な光合成が行なわれないようになると、宿主であるサンゴの栄養状態も悪化し、条件によっては死滅することもあります。
 褐虫藻は各々様々なサンゴのポリプと共生していますが、サンゴの色が違うのは褐虫藻の色の違いによるものです。


 サンゴの断面図

触手
石灰質の固い骨格の上に、プランクトンなどをつかまえる触手があります。
先端には毒の入った刺胞があります。

隔壁
褐虫藻を住まわせている場所です。褐虫藻は藻の仲間(植物)です。


※ 左図は「沖縄県自然環境問題(さんご礁保全・赤土流出問題)」より引用

※ サンゴの詳細については、日本サンゴ礁学会のHPや、WWFサンゴ礁保護研究センター「しらほサンゴ村」のHPを参考にして下さい。
 

3.サンゴ礁とは

 サンゴは体内で炭酸カルシウム(CaCO3)を分泌して海底の基盤に固着し、その上に固い骨格を形成しながら成長していきます。 造礁サンゴが生育するのに適している海域は日光が十分に届く、塩分濃度3.4%〜3.6%、水温25℃〜29℃、水深20〜30m以浅です。 また、酸素やえさとなるプランクトンが十分にあり、清澄な水で海底もシルトなどが堆積していないことも大切です。

 サンゴ礁とはこのような条件下で、サンゴをはじめとする石灰質を分泌する生物が作る特徴的な地形の名称です。 造礁サンゴ類をはじめとする生物遺骸が海底に堆積し、その堆積物が防波堤のように波に対抗できるまでに発達した地形のことを、サンゴ礁と呼びます。

 
礁地:干潮時、陸地との間にできるプールのような潮溜まり。
    イノーと呼ばれています。ここは生き物たちの宝庫です。

礁原:サンゴ礁が発達してできた所で、大潮の干潮時に姿を現します。

礁縁:サンゴ礁の端のことを言い、ここを過ぎると急に深くなります。

礁斜面:リーフの端から海の深い所へ落ち込んでいく所です。
     サンゴや魚の多い場所です。


※ 左図は「WWF・しらほ村」の展示資料より引用
  

4.サンゴの分布

現在のサンゴ礁は緯度にして南北30°以内の海域に分布しています。 サンゴ礁の成立には温度が大きく関係しているため、この緯度内でも寒流が流れ込む海域では発達が悪く、また、陸から大量の土砂が流れ込む海域でも発達が悪いです。 サンゴ礁は海水が温暖な域に分布し、冬季の海水温が18℃の線と分布限界はほぼ一致しています。

日本におれるサンゴ礁の分布域は鹿児島県トカラ列島以南から沖縄にかけての南西諸島、および東京都の小笠原諸島以南です。 南西諸島では、北緯30°以北にも分布していますが、これは黒潮による影響によるものです。

また、サンゴ礁を形成するまでには至らない造礁性サンゴの生息北限は、千葉県野島崎沖付近です。

地域 凡そのサンゴの種類数 地域 凡そのサンゴの種類数
台湾 240 高知 110
八重山 360 和歌山 90
宮古 250 熊本 90
沖縄 340 静岡 40
奄美 220 石川 1
種子島 150

 ※ データは「沖縄県自然環境問題(さんご礁保全・赤土流出問題)」のHPの資料より引用
 
5.サンゴの白化現象
 

 地球温暖化の影響でサンゴの白化現象が起こっています。白化現象というのはサンゴが死ぬということです。
 海水温が高くなると、サンゴに共生している褐虫藻がサンゴから逃げ出します。 異常高水温が一時的なものであれば、褐虫藻はまたサンゴに戻り白化は回復しますが、水温が極端に高かったり、高温が長く続くと白化したサンゴのポリプは栄養不足になり、やがて死滅に至ります。 そして、白化によって死亡したサンゴの骨格は数週間の後に褐色の藻類に覆われ、やがては瓦礫となります。

 こうした現象は、気象条件により晴天が続き雨が降らなかったり、台風の接近が少なかったりして海水温が上昇しすぎたために発生します。 台風がやって来ることは非常に大きな意味があり、台風は海水を撹拌し海水温を下げる大きな役割を果たすと考えられています。 また、このような気象的な現象は温暖化やエルニーニョと関係があるのではないかとも議論されています。

 また、開発によって流れ出す赤土もサンゴ礁を被って死滅させます。 サンゴを死滅させると海水中のCO2が増え、ますます海水温上昇が起こるようにもなります。
 この他にもオニヒトデによるサンゴの食い荒らし(食害)も白化現象の原因となっています。 オニヒトデは海水温が上昇すると異常発生するとも言われていますが、オニヒトデも本来サンゴ礁に棲む生物の一種であり、数十年に1度くらいは大発生を繰り返しているとする説もあります。

 その他、生活排水などによる海洋汚染、埋立て、強光、低塩分濃度、ヒメシロレイシガイダマシなどによる食害、天敵であるホラガイの大量採取などによっても白化が起こるとも言われていますが、原因は未だにはっきりしていません。


※ 左は2008年9月10日の朝日新聞から引用

 

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